2021年度 勇美賞受賞者

タイトル 高齢社会における家庭内での複数人死亡の解析と予防
主たる研究者 木林 和彦
所属先・団体名 東京女子医科大学医学部法医学講座 教授
選考コメント 本研究は東京にある大学病院で行われた法医解剖症例(2008~2021年)を対象としたものです。
本研究の内容は少子高齢・多死時代を迎える2025年以降の東京の予兆であり、法医解剖の見地からも在宅医療(訪問診療・訪問看護)の必要性を指摘する斬新な研究です。
調査研究の概要 【目的】家庭内で複数人が死亡しているのを同時に発見される場合がある。本研究では家庭内で複数人が死亡しているのが同時に発見された事例について、背景と要因を抽出し、在宅医療における訪問診療・看護上の対策を講じることを目的とした。

【方法】2008~2021年に東京女子医科大学で法医解剖が行われた症例1,231例のデータベースから複数人が死亡しているのが同時に発見された事例を抽出した。患者情報から年齢、性別、死亡者の人数、死亡者同士の関係、死亡場所、死亡状況を抽出し、解剖検査記録から死因、死亡日時、発見日時、死亡と発見の時間差、死亡順、血中アルコール濃度、検出薬物を抽出した。

【結果】複数人(2~4人)の死亡が同時に発見された事例は60件あり、人数は129人、年齢は6~98歳(65歳以上52人)、男性62人、女性67人であった。死亡者同士の関係は親族が44件と最も多く、死亡場所は自宅が47件と最も多かった。死亡状況は、心中18件、火災事故10件、病死後自殺6件、火災以外の事故7件、病死11件、他殺3件、その他及び不詳5件であった。家庭内での複数人の死亡事例があり、高齢者アルツハイマー病夫婦の熱中症による死亡、介護者が突然死した後の被介護者の寝たきり高齢者の低栄養による死亡、介護者の高齢夫が被介護者の高齢妻の入浴介助中の浴槽内溺死等については、家庭での高齢者介護の重要な課題として対策を講じる必要があると考えられた。
タイトル 地域在住高齢者におけるAdvance care planning の行動変容プロセスの検証および促進要因と阻害要因の検討
主たる研究者 郷原 志保
所属先・団体名 大東文化大学スポーツ・健康科学部看護学科 講師
選考コメント 比較的健康な地域在住高齢者対象のインタビューにより、ACPの行動変容プロセスの中核を示し、考察を加えています。今後は、社会の再構築への提言にも期待したいです。
調査研究の概要 【背景と目的】高齢者にとって人生の最終段階における医療やケアの選択を含めた残りの人生の過ごし方についての意思表明は、「その時が来たら」ではなく、元気な「今のうち」から始める準備性を培っていくことが求められている。本研究では、地域在住高齢者のACPを巡る行動変容プロセスを明らかにすることを目的とした。

【方法】地域在住高齢者のうち、自身の人生の最終段階について話し合った経験のある者を対象とし、インタビューガイドを用いた半構造化面接を実施した。分析方法は、M-GTAを用いた。

【結果】男性3名、女性11名の計14名のインタビューを実施した。分析の結果、47の概念を生成後、継続比較分析により3つのコアカテゴリー、5つのカテゴリー、11のサブカテゴリーを抽出した。

地域在住高齢者のACPを巡る行動変容プロセスは、<迷惑をかけること>、<親役割からの離脱困難>、<察して欲しい>の3つのコアカテゴリーを中心とし、【老いとの対峙】との中で、家族や身近な人の看取り経験などを通し【死を意味づけ】していた。≪死との接近経験≫は、自らの最期を意識するきっかけとなることで、≪身終いの準備≫を始めるが、【家族との関係文脈】の中で、親としての役割や家族機能の変化に伴う【家族内での存在意義】に思い悩み、自分の気持ちや希望を【言葉にすることへの回避】に繋がっていることが明らかとなった。
タイトル 訪問看護事業所におけるオンコール対応を行なう看護体制および態勢づくりのマイクロ・エスノグラフィー
主たる研究者 立川 尚子
所属先・団体名 共立女子大学看護学部地域在宅看護学領域  助教
選考コメント 訪問看護事業所がオンコール対応する際の看護体制と態勢づくりについて、文献検索およびフィールド調査を行った研究です。
本研究で得られた知見は、訪問看護事業所においてオンコール対応を構築するために有用であると考えられます。
調査研究の概要 【目的】訪問看護事業所においてオンコール対応を行なう看護体制や態勢づくりはどのように捉えられ、それらがどのような関係にあるかについて、オンコール対応や、看護体制および態勢づくりに関する記述から明らかにすることとした。

【方法】オンコール対応を積極的に行っている1訪問看護事業所の管理者および職員を対象に予備調査を実施し、フィールド選定基準を検討した。その上で、看護体制や態勢づくりと考えられる場面(カンファレンス、看護記録、職員間のやりとり)、緊急訪問や電話対応への参加観察、オンコール対応を行なう訪問看護師へのインタビューデータを収集し分析を行った。

【結果】研究参加者は管理者を含む11名で、極めて頻繁にオンコール対応を行っていたが、訪問看護師はオンコール対応への達成感を高めていた。対応力を高める背景には、ICTによる業務の可視化や迅速な情報と労いの共有に加え、カンファレンスでリーダー看護師がファシリテーション力を発揮し、職員の不安や困難感を組織全体で解決する取り組みが影響していた。

【考察】オンコール対応とは、【療養上の節目や転換期】や【療養の不安定期】におかれた療養者らへ、【療養の安定化】を組織が積極的に目指す看護実践である。看護体制や態勢は明確に切り分けられないが、訪問看護事業所は【組織的・臨時的対応の必要性・適切性を判断する場】を考慮した運営の必要性が示唆された。
タイトル 閉じこもり高齢者のQOLに関連する要因
主たる研究者 平野 はるみ
所属先・団体名 四日市看護医療大学大学院 修了
選考コメント 高齢者の閉じこもりは社会的に大きな問題であり、閉じこもり高齢者のQOLに関連する要因の研究は重要です。
本研究は、321名の高齢者の調査によって、ソーシャルサポートと経済的な要因が、閉じこもり高齢者のQOLに関連することを明らかにしています。
適切な解析がおこなわれており、考察も十分になされていると思われ、優れた研究であると考えられるため、勇美賞にふさわしいと考え推薦します。
調査研究の概要 【目的】 本研究の目的は、閉じこもり状態にある高齢者が人生の満足感(QOL)を保ちながら生活するために、どのような要因が影響しているかを明らかにし、今後の支援に活かすことである。

【方法】 A市B地域包括支援センターの管轄区域に在住し、在宅介護支援センターや介護支援専門員と関わりのある65歳以上の高齢者875人を対象に、無記名の自記式質問紙調査を実施した。閉じこもり高齢者のQOLを目的変数とし、基本属性、老いの受容、ソーシャル・サポート、大切にしている習慣を説明変数として重回帰分析を行った。

【結果】 有効回答者は321名で、閉じこもり高齢者のQOLはThe Satisfaction With Life Scale(SWLS)において平均19.6点(35点満点)と、一般高齢者より低い水準だった。重回帰分析の結果、QOLに有意な関連を示したのは「ソーシャル・サポート」と「経済的満足度」の2つであった。

【考察・結論】 閉じこもり高齢者は孤独感が強い傾向にあるが、ソーシャル・サポートが充実すると安心感が得られ、QOLの向上につながると考えられる。そのため、見守り支援や家族との関わりを促す取り組みが重要である。また、年金生活者に多くみられる経済的不安もQOLに影響しており、今後は経済的支援の提供や社会資源を高齢者にわかりやすく伝える支援が求められる。
タイトル 子育て世代親子と終末期患者のアドバンス・ケア・プランニング(ACP)に基づく対話の支援構築
主たる研究者 安井 渚
所属先・団体名 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 博士後期課程
選考コメント 介護をしながら子育てをしているsandwich generation caregivers(SGCs)への訪問看護師によるACPの実践は重要な研究テーマです。
質の高い質的研究で、多世代を繋ぐ実践、子どもと向き合う実践、体験と伝達の実践といったカテゴリーを明らかにして、他職種の在宅医療にも役立つ成果です。
調査研究の概要 【目的】 子育て世代親子と終末期にある祖父母を対象に、訪問看護師が担うアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の実践構造と、子育て世代親子の対話を活性化するプロセスを統合的に解明することを目的とした。

【方法】訪問看護師20名に半構造化面接を実施し、グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)で実践構造を抽出した。得られた構造に基づく面接ガイドより、子育て世代の介護者(SGCs)16名・子ども(9歳-22歳)14名に面接を行い、同じくGTAで対話プロセスを分析した。

【結果・考察】 訪問看護師の実践構造は(1)SGCsと終末期にある祖父母の2者を対象とした【在宅での看取りを支える実践】の基盤的支援、(2)SGCsを媒介者とした【多世代を繋ぐ実践】、(3)子ども中心の支援【子どもと向き合う実践】【体験と伝達の実践】の三層を呈する実践構造であった。次に子育て世代親子は、【オープンな情報共有への試み】、介護に伴う【生活の再調整に対する共通認識】【祖父母の終末期と向き合う共同体験】【死期が迫る祖父母への感情共有】のプロセスが親子の対話を活性化し、看取りに向けた合意形成と家族レジリエンスを高めていた。訪問看護師は意思の可視化と意味づけを促すファシリテーターとして機能し、子の理解と参加を保障しつつ、SGCsの負担と葛藤を調整する役割を明確化した。

【結論】 得られた知見は、家族をケアの単位とする実装可能なACPモデルとして臨床・教育・地域連携に資する。
タイトル 在宅で生活する病気・障がいのある子どもを育てる家族のソーシャル・キャピタルに関する研究
主たる研究者 松澤 明美(奨励賞)
所属先・団体名 北海道大学大学院保健科学研究院創成看護学分野・小児看護学教室 准教授
選考コメント 本研究は、在宅で病気や障がいのある子どもを育てる家族のソーシャル・キャピタル尺度日本語版を科学的に開発しています。背景・目的は明確で、方法も再現性が高く国際基準に準拠しています。結果も信頼性・妥当性が示され、考察では活用可能性や限界も議論されています。
以上より、本研究は新規性と科学性を兼ね備え、現場での価値も高く、勇美賞にふさわしいと考えます。
調査研究の概要 【目的】本研究は、病気・障がいのある子どもを育てる家族のソーシャル・キャピタル(Social Capital:SC)を定量的に測定可能な尺度を開発し、妥当性・信頼性を検証することである。

【方法】本尺度は米国で開発のSocial Capital Scale for families raising with children with chronic condition (Looman,2006)を翻訳して開発した。病気・障がいがある子どもの主養育者・保健医療福祉専門職へ認知的デブリーフィングを行い、内容的妥当性・表面妥当性を検証し、主養育者を対象に無記名自記式質問紙調査票を行い、信頼性・妥当性を分析した。

【結果】関東圏内の特別支援学校等の子どもの保護者124人の回答を分析した。フロア効果・I-T相関分析を踏まえて5項目を除外したクロンバックα係数は0.79、標本妥当性を示すKMO値は0.69であった。探索的因子分析の結果、原版同様の5因子で収束し、異なる因子構造を示した。構成概念妥当性では地域のSC測定の質問項目との相関係数はr=0.5056(p<.0001)であった。

【考察・結論】病気・障がいのある子どもの家族のSC尺度日本語版を開発し、家族のSC測定が可能な尺度として適切性を検証できた。今後は本尺度の精度を高め、これらの子どもの家族のSC測定の活用に向けた更なる検証が課題である。