2020年度 勇美賞受賞者
タイトル | NICU退院児の母親へのピアサポートプログラムの効果 |
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主たる研究者 | 笠井 由美子 |
所属先・団体名 | 川崎市立看護大学 講師 |
選考コメント | 小児在宅医療において、NICU退院児の在宅療養支援は重要な位置づけにあります。医学的支援と同等あるいはそれ以上に有効な支援としてピアサポートに着眼した本研究は独創的であり、その内容の実現性、有効性も高いです。今後の在宅医療への貢献が期待される研究です。 |
調査研究の概要 | 【目的】 NICU退院早期の低出生体重児(low birth weight infant:以下LBW)の母親へのピアサポート遠隔支援プログラムを開発し、実施・評価することを目的とした。 【方法】 支援プログラムの主な内容は、NICU退院早期のLBWの母親とLBWを子育て中の母親(以下:ピアサポーター)との1対1の交流をSNS(LINE)で4か月間交流することである。評価指標は、介入後の半構造的面接結果の分析、介入前後の日本語版心的外傷後成長尺度(PTGI-J)、母親としての自信尺度(J-MCQ)とした。 【結果・考察】 参加した母親は8名で、子どもの平均在胎週数は28.5±2.61週、平均出生体重は1294±626.8g、LINEの交流は平均58.2±30.9回だった。介入後の面接から、発達へのネガティブな思考が、この子のペースでいいといった《小さく産まれた子どもの将来に対する固執からの解放》というポジティブな変容が確認できた。この心理的変容に至った要因は、同じ経験をしてきたピアサポーターを自分のことを理解している人と認識したこと、他の子どもと変わらない子育てや小さく産まれた子の全て問題が生じるわけではないことを知る機会になったこと、肯定的フィードバックを受けたこと、出産時の想起や将来の気がかりの語りが影響していた。 また、PTGI-J下位尺度・J-MCQ下位尺度の3項目において、有意な向上を認めた。 【結論】 ピアサポート遠隔支援プログラムの介入により、ポジティブな変容が確認され、安心して子育てできる基盤を整えることにつながり、有用性が示唆された。 |
タイトル | 在宅で重度心身障害者と共に生きる母親の移行理論に基づいたアドバンス・ライフ・プランニング概念モデルの開発 |
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主たる研究者 | 倉田 慶子 |
所属先・団体名 | 湘南医療大学保健医療学部看護学科 教授 |
選考コメント | 文献検索からインタビューと質問紙調査を組み合わせて、体系的にALPモデルを構築した点が評価されると考えました。 |
調査研究の概要 | 【目的】在宅で重症心身障害者(以下:重症者)と共に生きる母親の介護生活上の体験やニーズからアドバンス・ライフ・プランニング(以下:ALP)モデルを作成し、その概念妥当性を検証する。 【方法】第一段階として、母親が介護生活上の体験やニーズ等のALPについて文献検討を行った。第二段階では、在宅で重症心身障害者と共に生活する母親とその支援者にインタビューを行い、抽出された10カテゴリーからMeleisの移行理論をもとにALP概念モデルを作成した。第三段階として、ALP概念モデルの下位概念から質問紙を作成し、381名から得られた探索的因子分析を実施しALP概念モデルの因子を抽出した。確認的因子分析をするために共分散構造を分析し、ALP概念モデルの概念妥当性を検証した。 【結果・考察】在宅で重症者と共に生きる母親のALPは、「子どもの成長発達と生活の変化」「親としての責任と決意」「情報収集の難しさと仲間とのつながり」「きょうだいについての苦悩と期待」「収入への不安」「替えの効かない役割」「介護生活上の覚悟と葛藤」「専門家からの支え」の8因子で構成されていた。これらの8因子から作成したALP概念モデルについて、共分散構造分析を実施し、ALP概念モデルの概念妥当性は支持された。母親のALPは、重症者の成長発達や病状の変化と切り離せない状況にある。母親のALPの支援は、同時に重症者自身のこれから先を見通すことにつながるのではないかと考える。 |
タイトル | 高齢者向け住宅や施設の介護職が感じる「住まい移行期」にある認知症高齢者へのケア提供時の困難感と、施設特性および多職種からの支援体制との関連 |
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主たる研究者 | 髙橋 芙沙子 |
所属先・団体名 | 関西医科大学看護学部 講師 |
選考コメント | 認知症を有する高齢者を対象として、住まいの移行後3か月間に介護職が感じるケア提供時の困難感と、施設特性や多職種からの支援体制との関連を明らかにした研究です。本研究の結果は、介護職のケア向上につながる可能性があり、有益な研究です。 |
調査研究の概要 | 目的:認知症高齢者が住み慣れた自宅から高齢者向け住宅や施設へ住まいを移行した約3か月間の移行期における、介護職が感じるケア提供時の困難感と、施設特性や多職種からの支援体制との関連を明らかにすることを目的とした。 方法:A府の認知症高齢者グループホーム、特定施設入居者生活介護施設、特別養護老人ホーム計1,000施設の介護職各1名へ、所属施設の特性、認知症高齢者の入所後3か月間におけるケア提供時の困難感、多職種からの支援体制等について、郵送による無記名自記式質問紙調査を実施した。回答は数値化し、ケア提供時の困難感と、施設特性および多職種からの支援体制との関連を分析した。 結果:221名の有効回答を得た。入所後3か月間では、夜間不眠、他の入所者とトラブルになる、暴言・暴力、施設を離れようとする、大声を上げる、の対応に困難感があった。88.2%が看護師、ケアマネジャー、医師から支援を受けており、支援方法は事業所内で対面、電話、サービス担当者会議が多く、支援内容は認知機能障害やBPSDへの対応方法、家族への対応が多かった。同事業所内に医師がいることがケア提供困難感と関連があり、入所者同士のトラブル対応は生活相談員への相談体制、電話での相談で関連があった。 結論:ケア困難感の軽減には、医療、福祉、生活等の包括的な視点からの支援体制が必要である。遠隔での相談体制を含めた、地域における多機関での連携・協働の重要性が示唆された。 |
タイトル | 災害遭遇時に在宅重症児の生活適応を促進する支援に関する研究 |
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主たる研究者 | 三宅 一代 |
所属先・団体名 | 兵庫県立大学看護学部 准教授 |
選考コメント | 「災害遭遇時の在宅重症児」の生活適応・環境調査などのご研究でしたが、備え方や心 構えも考察されており、災害時のみならず、必要な教訓がおりこまれていました。 |
調査研究の概要 | 研究の背景 重症心身障害児(以下、重症児)と家族にとって、災害遭遇時は、ライフラインの途絶や衛生材料といった物品の入手困難などから生命自体が脅かされる。重症児は環境の変化に敏感であるにもかかわらず、自身で環境を主体的に整えることが難しいといった重症児の災害遭遇時の脆弱性は明確である。 研究目的 自宅で生活する重症児が自然災害遭時にどのような支援があれば、重症児の生活適応を促進することができるのかを明らかにする。 研究方法 Sandelowskiらの質的記述的デザインの手法を用いデータ収集及び分析を行った。 研究協力者の概要 研究協力者は、東日本大震災、熊本地震を経験した重症児12名の養育者15名、本人1名及びケア提供者6名であった。 重症児の1人は、認知発達に問題はなく、震災当時は7歳で、家族および本人の希望があり体験を語ってくれた。11名については、自らの体験を言語として語ることは難しい状況であった。 本研究の知見 ・重症児の家族は、被災時にできないことが重なれば、更に気持ちを追い詰めることにつながる為、代替品や方法が分かっているという心構えが必要であり、備えるものだけでなく備え方も考慮する必要性 ・養育者に向けて、養育者自らを含めた家族の生活をつなぐ災害への備えの重要性を、ケア提供者が唱える必要性 ・日常の訪問時に緊急受診や予防薬の使用のタイミングなどを養育者とケア提供者が互いに確かめ合いが、非常時の対応を考える機会になる |
タイトル | シームレスな医学教育で在宅医志向の医学生を育成するためのキャリアパスに関する探索的研究 |
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主たる研究者 | 村上 学 |
所属先・団体名 | 北海道大学大学院医学研究院医学教育・国際交流推進センター 准教授 |
選考コメント | 在宅医キャリア誘導に必要な視点を明確する試みは これからも 発展されることを期待して、評価したいと思います。 |
調査研究の概要 | (背景・目的)在宅医療領域の未解決問題として、在宅医のキャリアパスが医学生に明示されていないことがある。本研究では、医学生に対して在宅医に対するイメージを、在宅医及び看護職・介護職に対して在宅医に必要な資質やキャリア選択に影響する要因を、それぞれ聞き取ることを目的とした。 (対象・方法)北海道内の医学生17名、在宅医及び看護職・介護職18名にフォーカスグループと半構造化面接を組合せたインタビュー調査を行った。内容は録音・活字化し、帰納的内容分析の手法でカテゴリーを抽出した。 (結果)医学生:在宅医のイメージとして、1. 長時間労働、2. 金銭的報酬や社会的地位の低さ、3. ロールモデルの少なさが挙がった。在宅医及び看護職・介護職:在宅医に必要な資質として、1. コミュニケーション、2. 全人的アプローチ、3. 多職種連携・チームワーク、4. 高齢者への礼節、5. 後継者育成、在宅医のキャリア選択に影響する要因として、1. ロールモデルの増加、2. キャリア選択のための医学教育の充実、3. 専門領域の認知度向上、4. 業務イメージと待遇の改善、5. ワークライフバランス改善が挙がった。 (考察・結論)研究結果は、学生に対する教育プログラム改革などの重要性を指摘した海外での先行研究とも一致した。在宅医キャリア誘導のために解決すべき要因が明確化され、将来の在宅医を増やすための医学教育改善に資すると考えられた。 |
タイトル | 在宅脳卒中患者に対する新たな転倒予測の検討 |
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主たる研究者 | 吉澤 康平 |
所属先・団体名 | 社会福祉法人聖隷福祉事業団 浜松市リハビリテーション病院 理学療法士 |
選考コメント | 転倒研究は多数あるが、脳卒中患者の非麻痺側歩幅による転倒予測に関しては一定の新規性があります。研究デザイン、研究の質が高く、在宅医療でも有益と考えます。 |
調査研究の概要 | 転倒リスクが高い脳卒中患者を抽出するために予測精度が高い評価が必要だが,バランス評価などの従来の転倒予測評価では予測精度が不十分である.脳卒中患者は歩行中の転倒が最も多いため,脳卒中患者の異常な歩容が転倒に影響する可能性がある.そのため,異常な歩容を評価できる歩行観察評価を転倒予測は従来の転倒予測評価よりも予測精度が高まる可能性があり,新たな転倒予測評価となる可能性がある. 本研究の目的は,歩行観察評価が従来の転倒予測評価よりも転倒予測に有効であるかどうかを明らかにすることであった. 本研究の結果,解析対象者は58名であり,転倒率は32.8%であった.まず歩行観察評価の項目のうち転倒に影響する項目として,非麻痺側歩幅が抽出された.転倒予測精度であるArea Under the Curve(AUC)は,非麻痺側歩幅(歩行観察評価項目)で0.835であり,従来の転倒予測評価であるバランス評価のBerg Balance Scale(BBS)は0.828であった. 本研究の結果では,歩行観察評価と従来の転倒予測評価は同程度の予測精度であった.しかし,測定に時間がかかるバランス評価よりも評価項目を1つに絞った歩行観察評価のほうが簡便に行うことが可能であり,今後臨床現場において歩行観察評価での転倒予測は有効となる可能性がある. |